腱板断裂をまるごと肩専門医が解説

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目次

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歌島 大輔
歌島 大輔
スポーツ整形外科医師(非常勤)景翠会 金沢病院
スポーツ整形外科専門医師(川崎市立井田病院・景翠会 金沢病院・さくら通り整形外科 各非常勤医師)として外来診療・手術を行っている。ケガやスポーツ障害という「マイナス」から元通りという「ゼロ」を目指すのではなく、パフォーマンスに変革をもたらす「大きなプラス」を一緒に目指す情報発信やコーチング活動をライフワークとする。

肩関節に特有のインナーマッスル(深層筋)である
腱板筋群(けんばんきんぐん)の損傷である

肩腱板損傷・腱板断裂について、

ここでは基本から症状、診察テスト、
治療法も手術やリハビリなど
この記事を読んでいただければ
一通りわかるような内容を心がけております。
こんにちは、肩関節を専門とする整形外科医の歌島です。
本日も記事をご覧いただきありがとうございます。

それではいきましょう!

肩腱板とは肩の大事なインナーマッスルの腱の合流部

肩腱板(かたけんばん)

これを正確に理解している人が
医療関係者の中にも少ないという印象があります。

よく腱板損傷という言葉を使いますが、
肩板損傷?と書いている人もいますし、
ときに腱板骨折?と書いている人も見かけたことがあります。

肩腱板・・・略して肩板・・・なんてことはないでしょうが、
ちょっとしたケアレスでしょう。

ただ、腱板骨折には驚きました。
腱板が骨だと思っている人が、
医療関係者にもいるということです。

ということで、まず
肩腱板とはなんぞや?ということから入りましょう。

肩の腱板

もっと言うと、ということになりますが、

肩はいいですよね。

次に「」ですが、

筋肉は骨にくっつく前に
より筋張って、硬めの線維に移行します。
この筋肉の続きの硬めの線維を「腱」
といいます。

次に「板」ですが、
これは解剖学用語というよりは、
見た目を表したモノと考えてください。

肩のインナーマッスルと呼ばれる、
深いところ、関節に近いところにある筋肉の中で、

特に重要なモノが
4つあり、

それぞれ

  1. 肩甲下筋
  2. 棘上筋
  3. 棘下筋
  4. 小円筋

という名前がついています。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

この4つの筋肉が、腱となって、
最終的には合流して「板」状になるので、

「腱板」というわけです。

つまり、肩腱板というのは、
4つのインナーマッスルの腱が
最終的に合流した部位のこと

腱板筋群とは
4つのインナーマッスルのこと

と言えます。

肩腱板損傷は単なる筋損傷、筋断裂とは違う

この肩腱板が、損傷してしまう。
それはつまり、断裂してしまう、
切れてしまうわけですが、

これを他の部位の筋肉の断裂と
同じとは考えない方がいいです。

通常、筋肉が切れてしまっても、
だんだんと修復されて、

ある程度の強度を持って、
筋肉がくっつきます。

つまり、よほどの重症でない限りは、
肉離れは手術はしません。

また、筋肉ではなく、
その先の腱の損傷としては、
代表的なものが
アキレス腱損傷だと思いますが、

このアキレス腱損傷は
手術でなくても、ギプスなどで治すこともできます。

肩腱板断裂は時間がたってもくっつかない

しかし、肩腱板損傷については
そうはいきません。

その大きな理由は、

肩腱板損傷は骨から腱板が
剥がれるように切れてしまうからです。

骨と腱という

カタいものと
ちょっとカタめのスジ

これがくっつくというのは、
筋肉同士や腱同士がくっつくことにくらべ、
難しいということですね。

そのため、
ほとんどの腱板損傷は
時間とともに、
むしろ拡大していきます。

つまり、重症化していく
ということです。

肩腱板損傷の特徴的な症状

この肩腱板損傷の症状ですが、
まずは当然、肩の痛みが典型的です。

しかし、それだけでは
五十肩や肩関節周囲炎など、
他と区別がつきません。

そういう意味では
腱板損傷のときに特徴的な症状を
理解しておきたいところです。

腕を捻ったときの痛み

まず腕を捻ったときの痛みです。

時にはドアノブを回したり、
扉の開閉をしたり

というような、小さめの動作でも痛い

ということがあります。

これは肩腱板筋群が
英語ではrotator cuff

つまり、回旋腱板と呼ばれるように

肩の回旋運動を担当するということが
1つの理由です。

自分ではあまり上がらないが、やってもらうと上がる

もう1つは、

肩が上がらない

という、多くの人が悩まされる肩の症状の中でも

自分の力では上げられなくて、

他の人や、
自分の逆側の手で腕を持って、
上げ「られる」と、

結構、上まで上げられる

という症状も特徴です。

筋肉が痩せている

腱板損傷では、
損傷した筋肉は使えなくなってくるので、

筋肉が萎縮します。

Man feels pain in the small of the back and holding hands on his loin

そうすると、裸になって、
両肩甲骨を比べてみると、

筋肉が痩せていることがあります。

肩腱板損傷は症状だけでは判別できない

最後に元も子もないような話ですが、

こういった特徴はあるモノの、

多くの肩腱板損傷の患者さんを拝見してきますと、
まったく肩が上げられない人や、
痛くて眠れない人もいらっしゃれば、

ちょっと痛い程度の人、

時には痛みが全然ない人までいます。

そういった経験から

僕は肩が専門だからこそ、

症状だけでは肩腱板が損傷しているか否かを
判断できないと考えています。

そのため、症状の経過や
患者さんの求めるレベルと肩の現状の機能のギャップ
などを判断して、

必要があれば、積極的にMRIや超音波などで
肩腱板損傷の有無をチェックしています。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

肩関節の代表的診察テスト

それでは次に、

肩に関する診察テストについて
解説していきます。

インピンジメントテスト

インピンジメントというのは
衝突するというような意味合いですが、

実際には
摩擦、擦れるというような状況に近いかもしれません。

次に紹介するHawkinsテストというのは、

肩関節の上、もしくは、
腱板の上に位置する、
肩峰(けんぽう)という肩甲骨の一部や、
そこから出ている靱帯(烏口肩峰靱帯)

腱板や腱板の付着部である
大結節(だいけっせつ)が
近づいて、擦れるような状況です。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

炎症がある部分が、
こすれたり、ぶつかったりすれば
痛いのは当然ですよね。

つまり、インピンジメントテストで
痛みが出れば、
その部位に炎症があるということが言えます。

Hawkinsテスト

Hawkinsテストは、
インピンジメントテストの代表的なモノで、

肩を前方に上げた状態(前ならえ)で、
肘を90°に曲げて、
肩を回旋させて手を身体の内側の方へ持っていく

この動きを医師にやられたときに
痛みが走るのが

Hawkinsテスト陽性です。

ときに引っかかりや、コキっと音がします。

引用画像:コンパクトガイド整形外科検査法 第一版 協和企画

引用画像:コンパクトガイド整形外科検査法 第一版 協和企画

これはかなり多くの人で陽性になります。

特に腱板損傷があれば、
そこで摩擦、衝突を起こすテストで
陽性になりやすいですが、

腱板損傷がなくても、
かなりの確率で陽性になるので、

これだけで判断することはありません。

外転テスト

これは肩を外転
つまり、外から上に上げていく動き

この中で痛みがでるか
力が入るか?入らないか?

というようなことを判断します。

腱板の中では
棘上筋を中心に、
肩の回旋角度によっては棘下筋も
外転運動を担います。

これらの腱板の損傷を疑って
テストします。

empty canテスト

手に持った缶の水を
空にするような手の向き
肩を外転していく動きに対して、
抵抗力をかけるテストです。

左がempty can, 右がfull can test 画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

左がempty can, 右がfull can test
画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

特に棘下筋に負荷をかけた外転と言えます。

full canテスト

empty canに対して、
full ですから、缶に水を満たすような
手の向きでやります。

こちらは棘上筋に特に負荷がかかります。

drop armテスト

これは医師が腕を他動的に上げあげて、
自分でゆっくり下げてきてもらう

それが90°くらいでできずに
落ちてしまうとか、
強い痛みを訴える

という状態は陽性です。

引用画像:コンパクトガイド整形外科検査法 第一版 協和企画

引用画像:コンパクトガイド整形外科検査法 第一版 協和企画

腱板筋群のはたらきが悪いと、
肩を安定的に動かすことが出来ず
このような状態になります。

肩外旋筋力テスト

肩の外旋筋力
棘下筋が切れていると
かなり低下します。

引用画像:復帰をめざすスポーツ整形外科  第一版 メジカルビュー社

引用画像:復帰をめざすスポーツ整形外科  第一版 メジカルビュー社

左右で比べるとわかりやすいです。

内旋筋力テスト

内旋筋力は肩甲下筋の損傷で
低下します。

ただ、大胸筋などのアウターマッスルの
はたらきで筋力低下が目立たないことがあり、

特殊なテストで判断します。

lift offテスト

手を腰に持っていって、
腰から手を離すような位置で
保持できるかどうか

引用画像:コンパクトガイド整形外科検査法 第一版 協和企画

引用画像:コンパクトガイド整形外科検査法 第一版 協和企画

ということです。

内旋筋力が落ちていると、
保持できずに、また腰に手が触れてしまいます。

belly press テスト

これは手のひらでお腹を押す動作をするときに、

通常であれば肩の内旋という動きを使って、
肘がわずかに前に出るか、
そのままの位置でお腹を押せるわけですが、

内旋筋力が落ちていると、

肘が後ろに動いてしまいます。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

このように腱板損傷の可能性を考えて、
肩の診察をする際には、

肩の腱板筋群のそれぞれのはたらきから、
どのようなテストで痛みが誘発されるのか、
どのような筋力が落ちているのか

ということを調べていきます。

そのテストの結果と、
レントゲンやMRIの画像の結果を
照らし合わせて、

患者さんの症状の原因は
どこにあるのか?

ということを結論づけていく。

それが診断するということなんですね。

肩腱板損傷の保存療法

それでは治療にうつります。

手術をする場合もしない場合も、
痛みに対する炎症を抑える治療と、
リハビリテーションは重要です。

痛みに対する治療

腱板が切れてしまうと、
身体は当然、治そうとします。

その反応のひとつが
炎症反応です。

これは痛みを伴います。

ですから、いわゆる痛み止めは

消炎鎮痛剤と呼ばれるわけですね。

炎症を消して、痛みを鎮める

ということです。

これには湿布などの外用剤や
内服薬が使われます。

Taking medicine

また、腱板損傷部周囲に、
炎症を強く抑える作用がある
ステロイド剤を注射することも
よく行われます。

Young doctor women give an injection

Young doctor women give an injection

これらの治療は、
損傷した腱板を治す

という目的ではありません。

ただ、痛みを抑えないと、
肩の動きに支障をきたします。

結果、肩がカタくなったり、
リハビリテーションが進まない

ということになりますので、
重要な治療のピースです。

肩腱板損傷のリハビリ方法のポイント(手術なし)

まずは手術を行わず、
保存治療を行った場合の
リハビリのポイントを解説いたします。

手術後のリハビリの注意点については
こちらをご参照ください。

急性期は肩甲骨運動を中心に

急性期というのは、
正確には腱板が切れてしまってから
しばらくの痛みが強い時期

という意味ですが、

実際には「いつ腱板が切れてしまったか?」
ということはわからないことが多いです。

そのため、

シンプルに痛みが強い時期

ということにしましょう。

この痛みが強い時期の
保存療法としては、

その痛みの原因である炎症を
抑えるということに主眼が置かれます。

リハビリということで、
無理にたくさん肩を動かすと、
炎症が強まって、痛みが強まりかねません。

そこで肩関節というよりは
肩甲骨をあらゆる方向に動かす。

ということをオススメします。

シンプルな方法としては、
CATと呼ばれる
四つん這いで肩甲骨を広げて、寄せて
を繰り返すエクササイズ

肩すくめ運動がオススメです。

炎症が落ち着いたら肩の可動域訓練

炎症が落ち着いて
痛みがひいてきたら、

肩を動かし始めます。

肩腱板損傷の場合は、
肩関節がカタくなるケースは
あまり多くないのですが、

それでも、挙上、外転という
腕を上に上げていく範囲は徐々に
狭まってくることがあります。

また、自動可動域といって、
自分の力で挙げる
というときには

痛みが走ってしまい
挙がらない

後ろに腕を回せない

というケースはよくあります。

こういったときに、
特に腱板損傷では

アウターマッスルに力がより入ってしまい、
肩の動きがスムースでなくなってしまうことが
1つの原因ですので、

いかに無駄な力を入れずに
肩を動かしていくか

ということが大切です。

その感覚を一番養いつつ、
動かす範囲を広げていくのにオススメなのは

振子運動訓練と呼ばれる
エクササイズです。

力を抜いて、身体ごと、揺らすことで、
脱力した肩から先がが動かされる感覚で
動かしていきましょう。

インナーマッスルトレーニングは弱い負荷でじんわりと

肩の腱板損傷においては、
傷んでいるんだから

腱板筋群であるインナーマッスルのトレーニングは
するべきではないのでは?

という考えもあります。

ただ、肩のはたらき、仕組みを考えると、

むしろ、

腱板損傷の人こそ、
インナーマッスルのトレーニングが
必要と僕は考えています。

どういうことかというと、

肩というのはアウターマッスルと
インナーマッスルの共演で
動いています。

その中で、アウターマッスルは強い力、
インナーマッスルはその強い力の中でも、
不安定な肩を安定させる力、

という役割分担があります。

しかし、インナーマッスルが弱っている、
使えない状態があると、

アウターマッスルの強い力に
不安定な肩は振り回されます。

そうすると、傷んでいた腱板も、
余計に引っ張られたり、
インピンジメントを起こしたりします。

インピンジメントについては
こちらをご参照ください。

インピンジメント症候群とは?肩専門医が解説

2016.12.12

そういう意味で、
肩のインナーマッスルの中でも

完全には切れていない腱板を
効果的に使って、

肩を優しく使える
そんな状態をめざします。

ポイントは負荷は
「こんなんで意味あるの?」
という程度の弱い負荷で

トレーニング用のチューブは
段階的に張力があるモノが多いですが、
弱い張力のモノを使います。



肩腱板損傷の手術治療

まずは保存治療との兼ね合いで、

手術はした方がいいのかどうか?

ということについて、
考察していきたいと思います。

肩腱板損傷の手術は必須ではない

まず僕がいつも話すことです。

「肩の腱板損傷を放置したとして、
命に関わるモノではありません。

ですから、絶対に手術をしなくてはいけない
ということはありません。」

これは極論ですが、

どうしても、医師から「手術」と言われれば、
手術しなくてはいけないもの
と思ってしまう患者さんがいらっしゃるので、

お話ししています。

これは実際、事実で、

患者さん個人個人の
肩関節に対して求めるレベルと、

現状の肩関節の機能、はたらき、痛み

そして、

肩腱板損傷があるという中で、

今後の経過の予測

これらを総合的に判断して、
手術がオススメの場合はそれを提案しますし、

手術はやめておきましょうという
提案をすることもあります。

肩腱板損傷の手術は行わなくても放置はしない

手術をしない
という判断をした場合でも、

腱板損傷というのは、
多くは重症化していくモノです。

そして、その重症化が、
必ずしも
症状に表れず、

症状に表れたときには、
もう手遅れなくらいに
(腱板修復できないくらい)
重症化している

なんてことがあります。

そのため、保存治療の結果、
症状が改善したとしても、

1年に1回など、
間を置いて、
肩の超音波やMRIによる
腱板断裂の状態の評価をオススメしています。

肩腱板損傷の完全断裂と部分断裂(部分損傷)について

肩腱板損傷にも
損傷の重症度があります。

その中でもわかりやすい境界線が、

完全断裂か部分断裂か

ということです。

それには肩腱板の厚さについて
理解する必要があります。

腱板はしっかりした、厚い組織です。
そして、いくつかの層にわかれています。

肉眼レベルで言えば、
浅い層と深い層の2層構造で考えています。

そのままの名称ですが、
浅層深層です。

この肩の腱板は関節の中と外を隔てていますが、
浅層も深層も切れてしまう、完全断裂となると、

関節の中と外が交通してしまいます。

よく関節鏡という内視鏡で手術をしますが、
関節の中を覗いていても、
完全断裂をすると、腱板の断裂部から、外側が見えます。

部分損傷は3種類あり

それに対して、部分断裂というのは、
浅層、もしくは、深層、
もしくは、その間が切れてしまう

ということです。

腱板の浅層は関節の外側で、
外側には滑液包という滑膜で包まれたスペースがあります。

逆に腱板の深層は関節の中側で、
関節包という関節を包む薄い膜と連続しています。

ですので、

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

浅層の断裂を滑液包面断裂
深層の断裂を関節面断裂
その間の断裂を腱内断裂

と呼びます。

当然、部分損傷の方が、
完全損傷より軽症です。

この部分損傷が時間の経過とともに
徐々に重症化して
完全断裂に至ります。

ただ、痛みの程度は
意外と部分損傷の時に強いということもあります。

肩腱板損傷 -部分損傷-の手術法

今回は部分損傷の手術方法について
代表的な2つの手術を解説いたします。

【関節鏡下肩峰下除圧術】いわゆるクリーニング手術

まずは通称、クリーニング手術というものです。

正確には関節鏡下肩峰下除圧術という
小難しい名前がついています。

この手術は滑液包面断裂に対して、特に効果的であり、
また、完全断裂においても腱を縫う前に行われます。

関節鏡下肩峰下除圧術のターゲットはインピンジメント

この手術についてお伝えする前に、

インピンジメント症候群について
ご存じない方には、理解いただきたいと思います。

こちらで詳しく解説しておりますが、

インピンジメント症候群とは?肩専門医が解説

2016.12.12

インピンジメント症候群とは、

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂(一部改変)

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂(一部改変)

肩腱板の外側と、

肩甲骨の一部である肩峰(けんぽう)
または、
そこと連続する烏口肩峰靱帯(うこうけんぽうじんたい)

こすれるように、衝突する、
という病態です。

それが痛みを出したり、
腱板損傷の原因となったりする

と考えられています。

この状態を改善しようとするのが、
このクリーニング手術です。

実はクリーニング手術は通称であり、
また、広い概念を表します。

要は「お掃除手術」なわけですから、
痛みの原因となっているようなものを
お掃除するということ全般を指します。

なので、クリーニング手術の1つに
関節鏡下肩峰下除圧術がある
と捉えていただくと正確です。

関節鏡下肩峰下除圧術とは?

では、実際にはどういうことを行うのか?

というと、

かなりシンプルです。

まず、関節鏡という内視鏡を用います。
ペンよりも細い筒型のカメラを
関節の中や滑液包の中に挿入するわけですが、

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

胃や腸のように、
穴(口やお尻の穴)があるわけではありません。

そのため、小さく
1–1.5cmくらいは皮膚を切開して、
関節鏡や手術用の鉗子(はさみやメスなど)を
挿入して手術をします。

そして、インピンジメントの原因となる、

肩峰の下側を
薄くします。

これは骨を削ると言うことです。

特に、肩峰の下側でかつ、前の方は、
骨棘(こつきょく)と呼ばれる、
増殖した骨の棘があります。

これは特に痛みの原因となるので、
しっかりと削ります。

それに加え、
烏口肩峰靱帯(うこうけんぽうじんたい)
という靱帯を切ってしまいます。

靱帯を切ってしまって大丈夫なのか?

という心配は当然あると思います。

すべての人において大丈夫!
とは言いませんが、

多くの人においては大丈夫です。

それはなぜかといえば、

この烏口肩峰靱帯はその名の通り、

烏口突起(うこうとっき)と
肩峰をつなぐ靱帯です。

しかし、この2つ・・・

どちらも肩甲骨の一部なんですね。

つまり、同じ骨の異なる部位を繋ぐ靱帯なんです。

靱帯の役割は、
骨と骨を繋いで、
その骨と骨が関節において不安定にならないように、
脱臼しないように張って支えることです。

しかし、この烏口肩峰靱帯は
同じ骨を繋いでいるので、
不安定も何もありません。

そういう意味で大丈夫と言えます。

【関節鏡下腱板修復術】内視鏡だから縫える

次に関節鏡下腱板修復術です。

これはそのままシンプルです、
先ほども出てきた関節鏡を使って、

腱板の切れたところを修復するということです。

修復の方法は
細かく言えば、いろいろありますが、

大原則は、
骨に腱板の切れ端を縫い付ける

ということが必要になります。

腱板断裂は
骨から剥がれるように切れるのが特徴でしたね。

そのため、骨に糸を通すのは
難しいので、

一般にはアンカーという
糸付きのスクリューを骨の中に埋め込んで、
その糸を腱板に通して、
結ぶなどして固定します。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

関節鏡でなければ縫えない

関節面断裂や腱内断裂は
関節鏡を使わないと縫えない

と言ってもいいでしょう。

昔は腱板断裂は、
皮膚を数cm切って、三角筋という
アウターマッスルをこじ開けて、

腱板に到達して、
直接観ながら縫っていました。

今もその方法で縫う先生もいますが、

関節面断裂や腱内断裂は
関節の中と外を行き来して、
縫合しないといけません。

しかし、部分断裂では、
腱板を完全に切らない限りは
関節の中は直視できません。

それはやりすぎですよね。

治してるのか、壊してるのかわかりません。

そういう意味では、
この部分損傷の治療においては、
特に関節鏡手術に優位性があると言えるでしょう。

クリーニング手術と修復術 使い分けは?

じゃあ、どっちの手術がいいのか?
という疑問は当然出てきますよね。

これは、一言で言えば、
重症度です。

部分損傷の中でも完全損傷になりそうな
損傷の大きさであれば、修復しますし、

ほんのわずかの部分損傷であれば、
自然修復を期待して、
クリーニングにとどめます。

そこは最終的には
関節鏡でしっかり観察して決めることになります。

肩腱板断裂の手術法

次に、腱板の完全断裂の手術について
解説いたします。

 

シンプルに切れてしまった腱を
もともとの骨に縫い付ける、
ということが「腱板手術」もしくは
「腱板修復術」と言います。

この腱板手術には
直視下と関節鏡視下の2種類があります。

それぞれメリット、デメリットがありますので、
解説いたします。

【直視下腱板手術】直接傷をあけて縫う

直視下の場合は、
皮膚を5–6cm切って、
三角筋というアウターマッスルを
裂くようにして、一部、切って、
腱板断裂部を直接みえる状態で手術をします。

画像引用元:肩関節の手術 整形外科手術イラストレイテッド 初版 中山書店

画像引用元:肩関節の手術 整形外科手術イラストレイテッド 初版 中山書店

メリットは比較的簡便

メリットは手術時間が短いこと
手術する医師による技術の差が出にくいこと

が言われています。

デメリットは手術によるダメージや観察範囲の狭さ

しかし、手術創が大きいことや、
三角筋という損傷していないアウターマッスルに
ダメージが加わってしまうことは
デメリットと言えます。

そのため、術後の痛みや、可動域の回復が、
関節鏡手術より劣ると考える人も多いです。

また、直接見える範囲というのは、
限られていて、

特に関節の中は腱板の断裂の大きさによって、
多少見えることもあれば、
全然見えないこともあります。

これは関節鏡との大きな違いで、
より微細なレベルの関節内の異常
(腱板関節面断裂や関節唇損傷)などは
直視下手術では発見すらできないこともある

と言えます。

【関節鏡視下腱板手術】内視鏡で縫う

それに対して、

関節鏡視下腱板手術では、
関節鏡という内視鏡を用います。

ペンよりも細い筒型のカメラを
関節の中や滑液包の中に挿入するわけですが、

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

胃や腸のように、
穴(口やお尻の穴)があるわけではありません。

そのため、小さく
1cmくらいは皮膚を切開して、
関節鏡や手術用の鉗子(はさみやメスなど)を
挿入して手術をします。

メリットは手術ダメージが少ない、観察範囲が広い

メリットは直視下腱板手術のデメリットが
そのままメリットと言えます。

三角筋という筋肉を大きく裂いたり、
切ったりする必要がないことでダメージが少ないこと。

また、関節内も含めて、
様々な方向から様々な部位を観察できることによる、
病態の把握ができ、見逃しが減ること。

これがメリットと言えるでしょう。

関節鏡の創は1cm程度と言いましたが、
実際はこれが4–6個くらい、
複数の創ができます。

それは様々な方向から観察したり、
鉗子を入れたりするためですが、

それなら、足せば直視下と変わらない
創の大きさになるという意見もあります。

しかし、足して同じ
というのは、単純計算というか、
安易というか・・・

創の目立ち具合も
明らかに直視下の5–6cmの創の方が目立ちますし、

なにより、
三角筋へのダメージ

直視下手術による
1カ所の創で患部がしっかり直視できるように
大きく裂くというのと、

関節鏡手術による
いくつかの場所から
細い鉗子や関節鏡を三角筋を貫いて操作する

というのでは、

全然違うというのが実感です。

デメリットは術者の習熟が必要

デメリットは、これまた直視下のメリットの裏返しです。

関節鏡を使うと、
直視下よりはどうしても少し時間がかかります。

僕自身も関節鏡手術を
毎週のように執刀させていただいておりますが、

手術時間は1–2時間くらいかかります。

しかし、直視下手術では30分くらいで
慣れれば縫合できます。

また、関節鏡手術で1–2時間と言いましたが、
経験の浅い医師になると、
3時間以上かかることもあります。

関節鏡手術の方が、
技術的には難しいと言えます。

そのため、手術する医師によって、
治療成績に差が出る可能性があります。

【人工肩関節手術】肩関節を金属に入れ替えてしまう

最後に人工肩関節手術ですが、

これは腱板が修復できないと
判断したときの選択肢です。

腱板断裂があまりに広範囲となれば、

その断裂部をもとの骨に引っ張ってくる
ことができません。

どうしても届かない・・・

ということが起こります。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

それでも、太ももの筋膜を移植したり、
人工靱帯のようなもので補強したり、
という工夫をするのですが、

広範囲に切れてしまって、
時間が経って、筋肉としての機能を
失ってしまった腱板を
いくらむりやり修復しても

結局、肩の機能は回復しない。
ということが起こりえます。

それならば、肩関節自体を
人工の金属にして、

それも特殊な形状の人工関節を挿入すると、
インナーマッスルである腱板筋群がなくても、
肩を上げることができます。

人工関節ですので、
手術創も大きく、
身体に対する負担も大きな手術ですが、

最後の手段の手術として、
十分、期待を持てる手術法と言えます。

肩腱板損傷のリハビリの禁忌からポイントに迫る

次に肩腱板損傷の手術後、
特に関節鏡を使って腱板を修復する
という今主流の手術を行ったケースの
術後リハビリについて解説します。

手術についてはこちらの記事で解説しております。

手術からしばらくは縫った糸だけに頼っている状態

手術というのは、
肩腱板の断裂した端っこに
糸を通して、
その糸を引っ張った状態で、
骨に固定ています。

つまり、縫った糸だけで
腱板を固定しているわけですね。

そこから時間をかけて、
腱板と骨がくっついていくわけですが、

通常の筋肉と筋肉を縫ったときよりも
時間はかなりかかります。

そのため、その間、
糸だけで固定している

ということになります。

ということは、手術後に、
せっかく縫った腱板が、

また切れてしまう。

そういうリスクにさらされている

ということを理解しないといけません。

腱板の再断裂を防ぐには筋肉を緩めること

この再断裂を防ぐにはどうすればいいのか?
ということですが、

縫ったのは腱板という筋肉の先端ですね。

つまり、筋肉が収縮する=力が入る
ということで、縫った腱板が
再断裂する方向に引っ張られます。

そのため、手術後しばらくは・・・

だいたい、
2–3ヶ月くらいと
考えていいと思いますが、

そのくらい長い期間、

筋肉を緩めておくこと、
つまり、
力が入って、縫合部分を引っ張らないようにする。

ということが原則と言えます。

その原則から、
具体的に2つのリハビリ禁忌が考えられます。

腱板術後リハビリ禁忌1:術後早期からの自分の力で動かすこと

1つは手術後早期から、
つまり、まだ十分くっつく前から、

自分の力で肩を動かしてしまうことです。

これを防ぐために、
術後数週間は

肩関節装具を使用したり、
三角巾を使用したりします。

これを理解していないと、

装具をしているのに、
シャワーや着替えのときに、
平気で自分で肩を上げて外したり

というようなことをする人がいます。

自分で肩を動かさない・・・

あまり考えたことがない注意点だと思います。
こういうと、
肘から手首まで
全然動かせなくなっちゃう人もいます。

一番は重力などの
力に拮抗して肩を動かすのをやめたいので、

シンプルな言い方としては、

「脇を前後、左右に開かないでください」

と言っています。

肩を動かすという中で、

  • 屈曲は前に脇を開く動き
  • 伸展は後ろに脇を開く動き
  • 外転は外側に脇を開く動き
  • 内転は内側に脇を(開くとは言わないかもしれませんね)

ということになります。

これらをしないということは、
腕は常に装具や三角巾のなかか、
それらを外した後なら、
体幹の側面についていることになります。

腱板術後リハビリ禁忌2:激痛を我慢しての激しい可動域訓練

もうひとつの禁忌は、

痛みが強い中でも、我慢して、
激しく動かすということです。

「リハビリテーションというのは、
激痛を我慢して我慢して、
動かせるようにするモノだ」

というイメージを持っている人は多いです。

実際、
ある程度の我慢は必要なのですが、

激痛を我慢しながらやると言うことは、

反応的にめっちゃ力が入ってしまっています。

わかりますよね、
原則から逆行しています。

そのため、消炎鎮痛剤などを使いながら、
リハビリ中の痛みを抑え、
できるだけリラックスした状態でリハビリを行う。

ということが非常に重要です。

腱板断裂の手術をしたのに再断裂することがある

腱板と骨がくっつくという難しさ

冒頭でも述べましたが、

腱板断裂の手術は腱というスジと骨がくっつかないといけません。
スジとスジ、骨と骨がくっつくのは比較的容易ですが、スジと骨という違うものがくっつくというのは簡単ではありません。

そのため、くっつくまでに時間がかかります。

骨折は1.5ヶ月くらいでかなりくっついてくれますが、腱板と骨ということで言えば、1.5ヶ月くらいでくっつき「始める」くらいのイメージです。そして、3ヶ月くらいで筋肉に負荷をかけても大丈夫と言えるくらいのくっつきになります。

それまでは縫った糸でしっかりと骨にスジを固定しておかないといけませんが、その過程で、腱板(スジ)がちぎれてしまったり、糸が切れてしまったりすることがあります。

この結果、再断裂という状態になります。

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腱板断裂の手術ですべて完璧に縫えているとは限らない

また、もともと最初の手術において、完璧に腱板を骨に固定できないこともあります。

これは腱板断裂が重症で、腱板をいくら引っ張っても元々くっついていた骨まで届かないことがあります。

その場合は部分修復という状態になります。
(太ももの筋膜を移植したり、人工の靭帯のようなモノを使うこともあります。)

一部は切れた状態だが、一部は縫えた状態ですね。

この状態で術後にMRIを撮ってみると、当然、一部は腱板断裂の所見が見られます。これは再断裂とは言わないかもしれませんが、こういった部分修復になってしまいそうな重症の腱板断裂の再断裂の確率は高いと言われています。

腱板が再断裂した場合は必ず再手術か?

では腱板が再断裂してしまった場合は再手術をしないといけないのか?というお話に移ります。

再断裂と言っても、どの程度の再断裂かしっかり把握する

まず再断裂の程度を評価するということですが、

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

部分修復になった場合は特にそうですが、手術前と手術後のMRIを丁寧に比べる必要があります。これは主治医の仕事ですが、

  • 手術前よりも大きく再断裂してしまった場合
  • 手術前と同じレベルに完全に戻ってしまった場合
  • 手術前よりはくっついている部分がある場合

と少なくとも3段階の評価をします。

肩のはたらき(筋力、可動域など)や痛みの回復を評価

さらに肩のはたらきとして、筋力や可動域(動かせる範囲)や痛みの回復具合を調べます。

また日常生活やスポーツ動作などにおいてできることとできないことをハッキリさせます。

再手術は一般的には厳しい戦いになる

このように画像と実際の肩のはたらき、症状を総合的に判断して、再手術が必要と考えれば、主治医から提案があるでしょう。

しかし、最初の手術でもできうるベストな手術をしたはずですから、それで再断裂してしまったということは、腱板の状態としてはなかなか厳しい状態であると考えられます。

それをもう1度手術して、次はくっつくのか?というと、それは難しいかもしれません。

そこで、太ももの筋膜を移植したり、人工の靭帯などで補強したり・・・
それどころか腱板の修復は断念して、人工関節を入れる手術に切り替えたりと、大変な手術になる可能性もあります。

実際に再断裂はときに起こっているが、再手術は少ない

ですから、再断裂が起こってしまったら、即イコール再手術とはならず、むしろ、再断裂していても、症状は手術前より改善しているから、リハビリテーションを中心に手術せずに治療していきましょうというケースのが方が多いです。

まとめ

腱板断裂についてまるごと解説しようとしたら、これだけのボリュームになってしまいました。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

歌島 大輔

スポーツ整形外科専門医師(川崎市立井田病院・景翠会 金沢病院・さくら通り整形外科 各非常勤医師)として外来診療・手術を行っている。ケガやスポーツ障害という「マイナス」から元通りという「ゼロ」を目指すのではなく、パフォーマンスに変革をもたらす「大きなプラス」を一緒に目指す情報発信やコーチング活動をライフワークとする。