長胸神経麻痺は前鋸筋の作用を理解してリハビリで治す!専門医解説

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スポーツ整形外科医師として様々な病院で日常診療とともに、ケガやスポーツ障害という「マイナス」から元通りという「ゼロ」を目指すのではなく、パフォーマンスに変革をもたらす「大きなプラス」を一緒に目指す情報発信やコーチング活動をしている。

長胸神経麻痺(ちょうきょうしんけいまひ)

これは医師でも聞いたことがない人もいるかもしれませんが、意外と起こりやすい神経麻痺の1つです。

長胸神経は前鋸筋(ぜんきょきん)という肩甲骨運動に重要な作用を持つ筋肉を動かす神経ですので、この作用を立体的に理解、イメージして、長胸神経麻痺になってしまってもリハビリで改善が期待できます。

2017年 長期離脱していた巨人の沢村投手がトレーナーの鍼灸施術による長胸神経麻痺の診断であったとニュースになりましたね。(本当に鍼灸施術が原因と特定するのはとても難しいですが)

こんにちは、スポーツと肩を専門とする整形外科医の歌島です。本日も記事をご覧いただきあありがとうございます。

それではいきましょう。

長胸神経と前鋸筋の解剖 どこをどう走ってる?

この長胸神経は首のレベルの脊髄から枝分かれし、鎖骨の下を通って、胸の側面を下りていきます。そして、そこに走っている前鋸筋の中に入って支配します。

長胸神経と前鋸筋 画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院

脳からの信号がこの長胸神経を通って前鋸筋を動かすわけですね。

この前鋸筋は肋骨の前側面から肩甲骨にくっつきます。

画像引用元:Grant’s Atlas of Anatomy

体表からも実は触れることができます。

長胸神経は意外と皮膚から近い位置にある

この長胸神経は頚椎から鎖骨の下を通る辺りは比較的深いところを走りますが、前鋸筋に入る近くになると、前鋸筋の表面を下りてくるように走ります。

前鋸筋は先ほどもお示ししたとおり、体表からもわかるくらい浅い位置を走りますので、その表面を走る長胸神経もより浅い位置にあります。

これが長胸神経麻痺が意外と少なくない要因です。

長胸神経麻痺の原因 なぜ麻痺してしまう?

では、この長胸神経ですが、なぜ麻痺をしてしまうのでしょうか?

神経麻痺の原因は主に3種類あって、

  • 長時間にわたる圧迫
  • 鋭利なものでの損傷
  • 神経を過度に引っ張ってしまう

この3つです。

例えば、長時間、脚を組んでいて足がしびれたことはありませんか?

これは脚を組んでいたために腓骨神経(ひこつしんけい)を圧迫してしまったための腓骨神経麻痺です。

また、注射などで神経を刺してしまって損傷したり、手術で神経が切れてしまえば、神経麻痺になります。

リュックサックを長時間背負うことによる麻痺が有名

まず圧迫してしまう場合の典型例ですが、
リュックサックですね。
リュックサック麻痺なんて言われたりもします。

リュックサックのバンドを強く締めていると、この長胸神経をバンドが圧迫してしまいます。

ただ、よほど締め付けないと、直接の圧迫はしないかなと思われますので、もう一つはリュックサックの重みが肩甲骨にかかり、肩甲骨と肋骨の間で長胸神経が圧迫されるということも原因になると考えられています。

 

どちらにしてもリュックサックを背負うときは、
* 荷物を重すぎないようにする
* バンドをキツくしすぎない
* 長時間背負い続けない

ということがポイントになります。

医療処置が原因になることもあり

また、乳がんなどの手術で腋(わき)の部分のリンパ節をとることがありますが、このときに長胸神経を傷つけてしまったり、手術中に強めの圧迫を加えてしまうことがあります。

また、浅い位置を走る特性上、今回の沢村投手のニュースのように鍼灸施術も原因になり得ますし、それどころか、マッサージだってやり方によっては麻痺の原因になり得ます。

スポーツ動作も原因になり得る

また、テニスのサーブやゴルフスイング、体操競技などスポーツの動作によっては肩を挙上しながら、さらに体幹も側屈して、長胸神経を引っ張ってしまう動作があります。

Tennis player serving

この繰り返しが長胸神経麻痺の原因になることがあります。

ということは、沢村投手の長胸神経麻痺もオーバースローの沢村投手の投球動作自体が原因であった可能性すらありますし、それ以外にもトレーニングが原因になっていたかもしれませんし・・・原因特定はやはり簡単ではないと思います。

長胸神経が支配する前鋸筋の作用

この長胸神経が支配する前鋸筋のはたらき、作用を理解しておきましょう。

あらゆる筋肉の働きを理解するのに大切なのは、
その筋肉がどの骨とどの骨にくっついているか?です。

筋肉の作用は「縮む」ということです。

ですから、その筋肉がくっついている骨と骨を近づけるように動かすのが作用になります。

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前鋸筋は肩甲骨を動かす

ということで、前鋸筋は「肋骨の前外側」から「肩甲骨」にくっついているので、

体幹に対して肩甲骨を動かすのが前鋸筋の作用です。

 

具体的には肩甲骨を肋骨、それも前外側方向に動かします。
丸みを帯びた肋骨に反って肩甲骨を前方側方に動かすということです。

これは肩甲骨の外転(がいてん)という動きになります。

 

ただ、一番活躍するのは、

腕を前方から上げていく動きの時です。
肩の前方挙上という動きですね。

 

このときには肩の三角筋の前方が働いていますが、これは主に肩甲骨と上腕骨(腕)をつなぐ筋肉ですが、この三角筋が有効に働くには元になる肩甲骨が固定されている必要があります。

そうしないと、三角筋が縮んでも腕を上げているのか、肩甲骨を引っ張っているのかわからない動きになってしまいます。

そこで肩甲骨を固定してくれているのが前鋸筋ということになります。前鋸筋が肋骨に肩甲骨をくっつけておいてくれるイメージです。

画像引用元:Grant’s Atlas of Anatomy

長胸神経麻痺の症状 前鋸筋が使えないとどうなる?

この前鋸筋が使えなくなるとどうなるか?
つまり、長胸神経麻痺の症状ということですが、

典型的なのは先ほども述べたとおり、
腕を前方から上げていく動きの時に起こります。

そこで効率いい動きができず、
翼状肩甲(よくじょうけんこう)と呼ばれる状態になってしまいます。

翼状肩甲とは背中側から見ると、肩甲骨が浮き上がってしまっている状態です。

 

重症な場合は腕を上げる動きができなくなってしまうこともありますし、そこまででなくても、肩を動かすスポーツパフォーマンスに対する悪影響は少なからず出ます。

 

つまり、肩を動かしにくい、パフォーマンスがおかしいと思ったときには、肩の動きとともに肩甲骨の動きを観察し、翼状肩甲という典型的症状があればこの長胸神経麻痺、前鋸筋麻痺を疑ういうことになります。

 

ちなみに翼状肩甲は肩甲骨の固定性が落ちているための症状ですから、前鋸筋以外の筋肉の働きが落ちていても起こりえます。そのため、翼状肩甲=長胸神経麻痺ではありませんので注意してください。

長胸神経麻痺のリハビリテーション

神経麻痺の治療の基本は自然回復を待つということです。
もちろん、神経麻痺の原因になりうることは避けながらです。
(スポーツ動作が原因であれば、その動作は休む必要がありますし、リュックを背負う生活が基本だった場合は、逆の腕でカバンを持つようにしたりというようなことですね)

完全に切れてしまっているなど、よほどの重度損傷でない限りは神経麻痺は自然に回復してきます。ただ、時間がかかるのが難点です。
重症度によりますが、1ヶ月以上・・・ときに半年以上かかることもありますし、

ときには1-2年以上かかり、それでもよくならなくて手術をする人もいます。

 

それまでただ指をくわえて待つということではなく、リハビリテーションを行います。

ここまで長胸神経麻痺を理解するための前鋸筋の作用についても学んでいただきましたので、リハビリテーションでやるべきことは理解しやすいかと思います。

基本のトレーニングは肩甲骨を肋骨に沿って前外側に動かしていくトレーニングです。まさに前鋸筋のみを使うような動きですね。

こちらの動画をご参照ください。

ポイントは肘は伸ばしっぱなしで肩甲骨の動きだけでダンベルを上に動かすということです。

まとめ

今回は長胸神経麻痺の原因や症状、リハビリをご紹介するにあたって、基本である前鋸筋という筋肉の作用を含めて解説いたしました。

肩を使うスポーツにおいて重要な肩甲骨の動き、安定性に重要な前鋸筋を理解することは有用です。
少しでも参考になりましたら幸いです。

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おかげさまでたくさんのご相談をいただいております。どうしてもゆっくり時間をかけて1人1人と向き合えないのが悩みですが、それでも、患者さんの希望、理想的にはゴールをできるだけ掴んで、お手伝いできること・ご提供できることを常に探しながら診療しております。

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