肩脱臼の手術方法を肩専門医が解説

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歌島 大輔
歌島 大輔
スポーツ整形外科医師(非常勤)景翠会 金沢病院
スポーツ整形外科専門医師(川崎市立井田病院・景翠会 金沢病院・さくら通り整形外科 各非常勤医師)として外来診療・手術を行っている。ケガやスポーツ障害という「マイナス」から元通りという「ゼロ」を目指すのではなく、パフォーマンスに変革をもたらす「大きなプラス」を一緒に目指す情報発信やコーチング活動をライフワークとする。

今回は肩脱臼、特に反復性肩関節脱臼と呼ばれる

クセになってしまった状態について、

 

そのメカニズム、主な原因を解説し、

それに対する手術方法を
できるだけわかりやすくお伝えいたします。

 

さらには肩の脱臼に対する手術のときに患者さんからいただく質問について、
例えば、

  • そもそも手術が必要な状態なのか?
  • 手術後の痛みはどんなものなのか?
  • 手術費用の問題
  • 術後のスポーツ復帰はいつ頃か?
  • 仕事への復帰はいつころ?

これらについても実際のところをお伝えしたいと思います。

こんにちは、肩を専門とするスポーツドクターの歌島です。
今回も記事をご覧いただきありがとうございます。

それではいきましょう!

 

手術をしない限り根本が修復されることは少ない

以上のようなおさらいをご覧いただくと、

一般に

関節唇損傷が治らなかった→反復性肩関節脱臼

ということですから
反復性肩関節脱臼には手術が必要

ということがわかると思います。

手術をするべきか迷ったら

何度も何度も肩の脱臼を繰り返していれば、もう、いい加減、どうにかしたい!!と思って、手術を希望されるケースが多いわけですが、

やはり、脱臼なんてことはとっても嫌な状態ですから、
外れやすい状態であっても、なんとか防ごうとする意識が強く働きますので、

毎週とか毎月とか、そんなスパンで脱臼を繰り返すってことは少ないです。

 

むしろ、何ヶ月ぶりとか、何年ぶり、なんていうように忘れた頃に外れてしまう

「ああ、やっぱり俺は外れやすいのか・・・」

 

と考えるケースが多いです。

 

では、どの段階で種々をするのがいいのでしょうか?

 

例えば、はじめて脱臼したときに、
2回目を起こさないように手術をするのがいいのか?

それとも2回目なのか?

3回目なのか?

5回目なのか?

 

それには明確な答えはありませんが、考えるための材料を御呈示します。

肩の脱臼を繰り返せば繰り返すほど軟骨や骨が傷んでいく

脱臼する瞬間は肩の中では当然、異常な動きや力が加わっています。

その衝撃で関節の軟骨は少しずつ傷んでいきます。
脱臼を繰り返している状態を放置していると、将来的に変形性関節症という軟骨がすり減った状態になるリスクがとても高まります。

  • 初回脱臼のみで再発しなかった場合は18%
  • 再脱臼防止手術を行った場合は29%
  • 手術をせずに脱臼を繰り返した場合は39%

これは将来的な変形性関節症(軟骨のすり減り)になってしまった人の割合です。

(AAOS 2014 review : Anterior Glenohumeral Instability: A Pathology-based Surgical Treatment Strategy)

また、ヒルザックス病変という上腕骨の後方の骨の凹みが、脱臼するたびに深くなったり、広くなってしまい、その結果、さらに脱臼しやすくなったり、脱臼から整復しにくくなったりしてしまいます。

 

 

若ければ若いほど脱臼を繰り返す

欧米を中心に近年は初回脱臼においても、積極的に再発防止の手術が行われてきています。

特に10代から20代の若い人が対象になっていますが、その理由はシンプルに若い人ほど再脱臼しやすいからということなんですね。

 

論文を探してみると、

  • 全体としての再脱臼率: 33-67%
  • 若いアスリートに限ると:55-87%

というデータが出ています。

(Rhee YG, et al. Clin Orthop Surg 2009
Boileau P, et al. JBJS Am 2006)

確かにこれだけ再脱臼するなら初回から手術をするのもひとつの選択肢と言えます。

肩脱臼(反復性肩関節脱臼)の手術方法

それでは肩の脱臼がクセになってしまった場合に
どのような手術方法があるのか
ご紹介していきます。

【バンカート法】関節唇を修復

まずバンカート損傷を修復する
というのが一番基本的な手術です。

骨から剥がれた関節唇を
もとの骨、

つまり肩甲骨の関節窩にくっつけるように修復
するわけですが、

そのために関節窩という骨に
糸付きのネジを挿入して
(最近は糸だけ骨に挿入することもあります)

その糸で関節唇を
いい緊張状態(ゆるゆるでない状態)で、
縫い付けます。

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節外科の要点と盲点 (整形外科Knack & Pitfalls)第1版 文光堂

これは関節唇の損傷の程度によりますが、

糸を4−5本使うことが多いです。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

 

さて、それでは動画で見てみましょう。

Bankart損傷の修復動画です。

まずはアニメーション動画です。

 

次に、実際の関節鏡の動画です。

具体的には剥がれた関節唇 を引き上げて縫い直すので、あえてしっかり剥がして、さらに剥がれているところを新鮮化してくっつきやすくしたあとに糸で縫合しています。

 

【レンプリサージ】ヒルザックス病変を棘下筋で覆う

ヒルザックス病変が
反復性脱臼の一因になり得る

ということを解説いたしました。

 

バンカート損傷を修復しても、
ヒルザックス病変が大きく、
外れやすい状態が残る場合は、

このレンプリサージ
というものを行うことが多いです。

このレンプリサージは、
削れてしまったヒルザックス病変に

そのすぐ表層を走る
棘下筋、小円筋を縫着(縫い付ける)する
という方法です。

画像引用元:Hill-Sachs "Remplissage": An Arthroscopic Solution for the Engaging Hill-Sachs Lesion ; Arthroscopy, vol 24, No 6, 2008

画像引用元:Hill-Sachs “Remplissage”: An Arthroscopic Solution for the Engaging Hill-Sachs Lesion ; Arthroscopy, vol 24, No 6, 2008

そうすることによって、

ヒルザックス病変がまたはまり込んで
脱臼してしまうのを防ごうということですね。

 

レンプリサージの動画です。

ヒルザックス病変に糸を埋め込んで(アンカー)、その糸で後の腱板をヒルザックスに縫い付けています。

【烏口突起移行術】スジ付き骨を移動して前の壁を作る

ラグビーやアメリカンフットボールなどの
コリジョンスポーツ、
また、柔道などの格闘技系のような

再脱臼のリスクが高いモノ

手術をしたのに再脱臼してしまったケースには

より強力に脱臼を防ごうと言うことで、

 

烏口突起という骨の一部を
受け皿である関節窩の前方に移行して、

前方の壁をつくるような
イメージの手術を行います。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

この烏口突起には
共同腱と呼ばれる
烏口腕筋、上腕二頭筋短頭という筋肉の腱が
くっついていますので、

その腱が前方に張り出すことによる、
脱臼防止作用も期待しています。

関節鏡下手術と直視下手術の違い

ここまで説明したうち、

バンカート法とレンプリサージは
関節鏡下手術が主流になっています。

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

画像引用元:肩関節鏡下手術 (スキル関節鏡下手術アトラス)第1版 文光堂

関節の中での手術は
関節鏡がかなり有利です。

 

直視下手術、つまり、
傷をしっかりあけて、直接中をみる手術は
関節の中をみるために、

筋肉を裂いて、
肩甲下筋というインナーマッスルを切って
侵入しないといけません。

その侵襲、ダメージは見逃せないモノです。

 

それが必要ないということだけで、
関節鏡のアドバンテージは大きいと
言えるでしょう。

当然、傷そのものも小さくなります。

関節鏡のデメリットは、
手術習得までにすこし時間がかかる
ということです。

その結果、手術ができる整形外科医は
そんなに多くはありません。

そういう意味では、
烏口突起移行術も関節鏡でやられる先生も
いらっしゃいますが、

技術的に難しく、

これについては多くの医師が
直視下に行っています。

 

手術によるダメージを小さくしたいということを
優先するあまり、
慣れない関節鏡で無理をしてしまうのは
本末転倒で、

一番治したい部分が不十分になったり、
ものすごく時間がかかったりしてしまうことになりかねません。

 

我々医師は、
そういったバランスを考えながら、
手術法を選択しています。

手術後の痛みはどのくらい強い?どのくらい続く?

僕の場合、関節鏡の手術をメインにやっておりますが、関節鏡手術というと傷が小さいので痛みも少ないと思われがちです。

しかし、関節の中ではしっかりと骨の中に糸を埋め込んだり、関節唇、関節包に糸を通したりと、想像するだけで痛そうなことはちゃんとやっているわけです。当然ですが。

そして、もうひとつ、関節鏡手術は大量の専用の滅菌水を関節の中に流しながら、水圧で出血も抑えながら手術をやっていますので、手術後にその水でむくんで腫れているのが通常です。

それらの要素があいまって、手術当日、翌日くらいは結構痛いこともあります。

特に夜間に痛みが強まるというのも肩の特徴です。

そのため、「最初は結構痛いのでがんばってください。痛み止めなどは適宜使いますが。」

と伝えています。

 

痛くないと思ってたら痛いのと

痛いと思ってたらそうでもないのだと

後者のほうが自分だったらいいかなと思って、そう話しています。

 

そこから手術そのものの強い痛みは結構速やかに改善していきますが、その後から、肩を動かすリハビリテーションが本格化していくわけですね。手術前と関節の中は当然、状況が変わっていますから、このリハビリテーションで肩を動かすときの痛みはどうしても生じます。

そういう意味では痛みなく動かせるという状態はメディカルリハビリテーションが一段落する術後2−3ヶ月くらいと説明しております。(実際にはもう少し早い印象がありますが)

手術の費用は?

気になるところですよね。

手術にかかる費用はどのくらいなのか?

 

これは病院の治療方針や入院期間などによって変わりますが、

3割負担の患者さんの場合は

20万円から30万円の間くらいではないかと思います。

限度額適用認定という制度を活用しよう

また、限定額適用認定という制度は知っておく必要があります。

これは、入院・手術等で診療費用が高額になる場合、あらかじめ保険者から『限度額適用認定証』の交付を受け、医療機関の窓口に提示頂くと、診療費用の患者様負担額が軽減される制度です。

診療費用が高額となった場合、全額をお支払い頂いた後でも保険者に対し申請を行えば、この制度で定められた自己負担限度額を超えた金額について払戻しを受けられます。

しかし、事前に申請を行い提出頂くことで、一時的な多額の現金の支払いを軽減できます。 (入院時の有料個室や食事等の保険対象外の医療費は対象外)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g5/cat550/1137-91156

このようなサイトも参考にしながら、ご自身の健康保険の保険者にお問い合わせしてみてください。

手術後の復帰はいつから?(仕事は?スポーツは?)

手術した後に仕事や、運転、スポーツなどを再開していいのはいつ頃ですか?というのは必ず聞かれる質問です。

実際は経過を見ながら判断していくことですが、僕の経験上の目安をご提示します。

 

まず仕事や日常生活ですが、手術後に三角巾や装具などをつけている期間(2−3週くらいが多い)は、その状態でできることならやっていいですよと説明しております。これは姿勢を工夫すれば両手でのパソコン操作や書字などのデスクワークも可能です。

また、患部の肩を大きく使うような仕事や動作は三角巾や装具を外して、肩の可動域が拡大してからとなりますが、それは一般的には術後4−6週間くらいに訪れることが多いかと思います。

さらに運転ですが、これは社会的な責任が特に生じます。法律上も「運転に支障がない状態」という文言がありますから、支障がある状態で運転することは違法となります。患部は固定したまま、片手だけで運転するなんてことは言語道断というわけです。

そういう意味で僕は肩関節の可動域を見て、運転の許可を出していて、だいたい術後6−8週間くらいで許可することが多いイメージがあります。

 

さらにスポーツ復帰ですが、脱臼再発のリスクがある動作が含まれないスポーツ(走るタイプの陸上競技など)は術後3−4ヶ月、脱臼再発のリスクがあるスポーツ(格闘技、アメリカンフットボール、ラグビーなど)は半年以降と話しております。

まとめ

今回は肩脱臼がクセになってしまった場合の
そのメカニズムから、

手術の方法についてもお話しいたしました。

少しでも参考になりましたら幸いです。

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当サイト管理人の歌島は関東の複数の病院で診療を行っております。

おかげさまでたくさんのご相談をいただいております。どうしてもゆっくり時間をかけて1人1人と向き合えないのが悩みですが、それでも、患者さんの希望、理想的にはゴールをできるだけ掴んで、お手伝いできること・ご提供できることを常に探しながら診療しております。

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